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ミャンマーのマイクロファイナンスを、システムの力で加速させる〜リンクルージョン代表取締役 黒柳英哲さん
ミャンマーを拠点に「マイクロファイナンス」と「BOPビジネス」を支援するリンクルージョン株式会社を設立された黒柳さん。
本当に課題解決に繋がる事業を行うべく、ビジネスという視点から社会課題に取り組まれています。
黒柳さんが働く上で大事にしていることや事業内容について伺いました。
「達成感」や「納得感」が持てる仕事をしたい
これまで歩まれてきたキャリアについて教えて下さい
初めての就職はサービス業でした。店舗マネージャーや本部人事の仕事をしたりと、仕事にかなり打ち込んでいましたね。25歳で退職して海外へ。
転職も考えたのですが、日本はその時期不景気だったので、2年くらい海外に行けば景気も良くなっているだろうと思って旅に出ました。
目的地は高専を休学してユーラシア大陸を横断した時に長期滞在したトルコ。その時に少しだけトルコ語を話せるようになったので、もっと勉強するつもりでした。
飛行機を使わずに向かいたくて、シンガポールから東南アジアをまわり、まずは香港まで。
ところが、旅をしながら自分の英語力の低さに気づいて、「これは英語を先に勉強した方が良い」と判断してオーストラリアに行きました。
2年ほど滞在したのですが、もともと仕事が好きだったので、だんだん仕事が恋しくなってきたのです。
そこでトルコは諦めて帰国をし、サービス業界での接客経験を活かせるだろうと、外資系ホテルで4年間働きました。
その後も何度か転職を重ね、NPOのファンドレイジングや地域活性化支援をする企業などに勤務。日本での仕事も楽しかったものの、やはり海外に関われる仕事がしたくて一旦フリーランスに転身しました。
パートナー機関と打合せ
そして、NGOの仕事をプロジェクトベースで手伝っていた時に出会ったのが、ミャンマーでのマイクロファイナンス。
今の事業パートナーであるマイクロファイナンスを行う現地NGOの代表から、事業について相談されました。
何かできないかと思って帰国後に日本ブレーンという銀行向けのシステムを作っている会社の役員をしている友人に話をしたところ、「うちでぜひ取り組みたい!」と興味を持っていただき、共同事業として進めていくことになったのです。
様々な仕事を経験されていますが、黒柳さんが仕事をする上で大事にしていることとはなんでしょうか?
パートナー機関と現場回り
それは「達成感や納得感を持てる仕事であること」です。
どんなものであれば達成感や納得感を持てるかというと、「本当にこれが人に必要とされている」「誰かの人生を変えるほどの価値を生み出せている」と思えるもの。たくさんの仕事を経験したことで、この思いに行き着きました。
たとえば、以前働いていた外資系ホテルは一流ランクだったので、宿泊客は富裕層の方ばかり。そこではお客様に対して、期待を超える感動を生むサービスをご提供することを求められます。
それは素晴らしい仕事ですが、同時に、すでに満たされている人たちを喜ばせることに対してむなしさを感じてしまう自分もいました。
人によって仕事に求めるものは違いますが、私にとって何よりも面白いのは、「社会問題を解決し、大きな社会的インパクトを出せる!」と思えることに全力で向き合っている時なのです。
「ビジネス視点」を持つことが、何よりも大事
現在事業で関わられている、マイクロファイナンスについて教えて下さい
現在世界では8億人が衛生的な水にアクセスできなかったり、15億人が電気のない生活をしたりしています。
さらに、20億人の方が融資、ローン、貯金、保険といった金融サービスを利用できない状況下に。
実は、貧困層や低所得の人ほど金融サービスの必要度が高いのです。
マイクロファイナンス顧客調査に同行
そんな20億人の人たちに金融を届けるのが、「マイクロファイナンス」。人々の自立を促したり、さらに貧困になるリスクを緩和したりしています。
世界に存在すると言われているマイクロファイナンス機関は約4000~10,000。
「人々にお金を貸す、お金を預かる」という基本的な業務内容は銀行とほとんど同じなので、管理するためのシステムが必要です。しかし、導入には数百万円かかってしまうことも。
そのため、資金力のない中小のマイクロファイナンス機関はシステム導入が難しく、業務が非効率だったりします。
私が事業として取り組み解決したいと思っているのは、「マイクロファイナンス機関のシステム化」の部分。
弊社が日本ブレーンと共同で開発したシステムであれば、既存システムよりも安価に提供でき、現場ではタブレットを使ってネット環境がなくても使えます。
これを導入することで、業務処理やお客様の情報管理を効率的に行うことができ、経営や顧客分析、商品開発など、サービス向上のための時間捻出に繋がるのです。
システムの練習をする様子
社会にとって「意義があること」ももちろん大事ですが、私がやりたいのは社会課題を「解決すること」。
そのためには、投入したリソースでどれくらいの価値を出せるかというビジネス視点を持って、自分の行動を選択することが重要です。
だから私は、マイクロファイナンス機関の仕組み部分をサポートすることで、結果的に大きな社会的インパクトを生み出したいと考えています。
低所得者層の統計データがあれば、より多くの課題解決に繋がる
「マイクロファイナンス機関のシステム化」以外にどんな事業をされているのでしょうか?
貧困層へのインタビュー
弊社ふたつ目の事業は「BOPビジネスを促進すること」です。
年間収入が3000ドル以下の低所得層の方をBOP層(Base of the Pyramidの略で「ピラミッドの底辺の人々」という意味)と呼ぶのですが、世界には約40億人いるこの人たちは、先進国の人たちが享受している便利な商品やサービスをなかなか受けられずにいます。
企業は消費力の弱いこの層を儲かる市場とは捉えないので、商品やサービスがなかなか行き渡りません。
そういう人たちに対して商品やサービスを提供する、あるいは雇用を生み出し、そこの市場をターゲットにしてビジネスをするのがBOPビジネスです。
しかし、ここには様々な課題があります。
ビジネスの際に必要なのはターゲットに関する情報ですが、途上国の低所得者層はどんな生活をして何に困り、どこにお金を使っているのかという情報がほとんどないのです。
調査しようとしても時間やコストがかかりますし、コミュニティーに入って話を聞こうにも、現地のネットワークがなければ伝統的なコミュニティーに入っていけません。
でも、もし弊社のシステムを使ってBPO層へのマイクロファイナンス顧客管理データを集めれば、低所得者層の統計データを得ることができます。
これを活用すれば、低所得者層に対する様々なアプローチが可能になるのです。
企業向けにはビジネスで社会課題を解決するBOPビジネス支援サービスを提供したり、国際機関と一緒により効果的な開発援助を考えたり。
また、研究教育機関とデータを分析してより効果的な貧困削減のプログラム開発もしてみたいと思っています。
ミャンマーのマイクロファイナンス市場の成長に貢献したい
ミャンマーのマイクロファイナンスの現状について教えて下さい
マイクロファイナンス自体は約40年前から世界に広がりましたが、ミャンマーの場合は民主化後に始まったばかり。必要としている人に対しての供給が全く間に合っていない状態です。
事業地の風景
とはいえ事業ライセンスを取る人たちは多く、現在約160のマイクロファイナンス機関があります。ほとんどが創業したばかりで、これからが拡大フェーズですね。
金融というのは、人の生活を良くするいい薬にもなりますし、人の生活を壊す悪い薬にもなります。
ミャンマーのマイクロファイナンス市場がどちらの方向に成長していくか、いまとても重要な局面にあります。低所得者の方々にとって良質な金融サービスが拡がるように、事業を通じて貢献していきたいと思っています。
今後黒柳さんが活動を通して達成したいことについて教えて下さい。
マイクロファイナンス機関の先にいる利用者の方々にとっての本当の価値とは何か、というのを常に自問しながら、私たちのビジョンである「低所得や貧困の中で暮らす人々が排除されることのない、あらゆる人をつつみこむ世界を創る」に向けて確かなインパクトを出していきたいですね。
マイクロファイナンスの融資風景
マイクロファイナンスは、低所得者の方々にとっての必要なツールのひとつですが、貧困削減への万能薬ではありません。
マイクロファイナンスをプラットフォームと捉えて、そこにさまざまな非金融サービスを乗せて届けていきたいと考えています。複数のマイクロファイナンス機関とフラットな提携関係を築ける私たちだからこそ生み出せる価値があると思っています。
若い人が海外で働くことについて、何かメッセージを下さい。
未経験の方にはハードル高く感じるかもしれませんが、仕事も日常生活も実際にやってみると日本でも海外でも大きくは変わりません。興味が湧いたらぜひ思い切って飛び込んでみてください。
プロフィール
黒柳英哲氏/Hidenori Kuroyanagi
リンクルージョン株式会社代表取締役
1980年生まれ。フリーランスとしてアジアでのビジネス支援、NPOのファンドレイジングや企業連携、国内の地域活性化支援などに関わる。40億人のためのビジネスアイデアコンテストファイナリスト選出。2015年4月にマイクロファイナンスとBOPビジネスを支援するリンクルージョン株式会社を設立しミャンマーを拠点に活動中。
by Nnn