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グローバル時代は覚悟を決めて「個」で勝負 一橋大学名誉教授・石倉洋子さん
昨今の若者は“内向き”志向といわれているが、本当か?「私の周りにあまり内向き志向の若者はいません。今は、内向き志向から海外志向への過渡期」、というのは、一橋大学名誉教授でグローバル人材の専門家でもある石倉洋子さん。世界的視野で自分の可能性を追求しようという人を応援するデジタルマガジン『日経GLOBAL GATE』では、若者の内向き志向の“正体”を探った。世界的視野で自分の可能性を追求しようという人を応援する“スマホで読む”デジタルマガジン『日経GLOBAL GATE』のABROADERS編。
内向き志向から海外志向への過渡期
編集部――統計結果によると、近年は海外志向の若者が約4割なのに対し、内向き志向の若者は約6割。本当に日本の若者は、内向き志向が強いのでしょうか?
石倉洋子さん(以下、石倉)――確かに内向き志向で保守的傾向が強い、という現象はあると思います。それは日本が住みやすいから。物価は高いけれど、明日から飢える心配も殺される心配もないし、何でも手に入る。なのに、なぜ海外に出て苦労しなきゃいけないの、と思っている若者が多いのも無理はありません。そういう人は、今の安定した生活が続くと思い込んでいるわけですが、その思い込みは危険です。
もうこれまでの“パターン”が通用しない時代です。テクノロジーの発展で世の中が大きく変わってしまいましたから。これからはもっとすごいことが起こると思います。仕事がなくなるとか、社会構造そのものが変わるとか。消滅する職業も、逆に新しく登場する職業もあるでしょう。それを常に考えておかないといけません。
編集部――その一方で、海外留学者数は2012年には底をついた感があり、世の中の流れから見て、“グローバル”志向が高まっているように思えますが。
石倉――今は内向き志向から海外志向へ転換していく過渡期なのではないでしょうか。私の周りには内向き志向の若者はあまりいません。かつての教え子たち、1990年代末に大学生だった人たちは、バブルがはじけて親がレイオフされ、入った会社が未来永劫続くとは限らないことを実感しています。先行きが不透明だとわかっているから、なんとか自分で切り開かなきゃいけないと思い、行動に出ているんですね。
知り合いにも、学生時代に起業し、その会社を売って、さらにシンガポールで起業した30代初めの女性がいます。音楽家の藤倉大さんは、音楽をやりたい一心で、15歳でイギリスに渡り、尾高賞を2度も受賞しました。藤倉さんも今30代後半。ふたりとも読者の方々と同じ年代ですよね。
彼らは、「世界は近くなった」ということを知っています。どうすればやりたいことができるかをすぐに調べられるし、行きたい場所には、すぐに連絡を入れて、行くことができる。その気になれば、何でもできると知っているので、行動に移しています。
彼らを見ていて思うのは、昔の海外志向の若者と比べて、“スケール”があまりに違うということです。そのスケールは半端じゃなく大きい。日本のトップを目指すなどは眼中になく、最初から世界のトップを目指しています。そして実際、そうなっている人が多い。世界レベルで活躍している人たちが目立つから、「グローバルな若者が増えている」と映るでしょう。これからはもっと増えるのでは。
自分で責任を取れる環境に身を置く
編集部――数字が示すように、内向き志向と海外志向の二極化が進むということですか。
石倉――若者の絶対数が減っている中で、海外に留学する日本人学生の数も2012年から増えてきています。私も海外志向と内向き志向が二極化していると思います。けれど、企業の業績も二極化しているし、現代は昔のような、グラフ化すると真ん中が大きく、上下が少ない樽型ではなく、いろいろな面で二極化は起きていると思いますね。
編集部――今回取材した方々の中にも、有名大学や大企業をあっさり辞めて、海外に飛び出した方がいらっしゃいました。
石倉――それはある意味、正しい選択だと思います。大企業に就職しても2割強は3年以内に辞めてしまうというデータがあります。
私自身、以前、最初は大企業に勤めると学ぶことが多くていいと思っていましたが、最近は必ずしもそうは思わなくなりましたね。大企業に勤めても、若いうちはもう少し経験を積んでから、と言って仕事を任せてもらえない。あくまでチームの一員でしかなく、「個」として評価してもらえず、失敗しても責任を取らせてくれない。そのうち言われたことしかしなくなり、いつまでたっても独り立ちできない。
そこに違和感を覚える若者や、「個」で勝負したいと思う人たちは、世界へ飛び出していくのでしょう。それは自然な流れです。

世界へ飛び出していくのは自然な流れ(写真:ryanking999 / PIXTA)
海外で揺るぎない自信を手に入れる
編集部――「個」としての存在感、「個」としてのスキルを存分に発揮できる環境に身を置くことが大事なんですね。
石倉――そうです。IT(情報技術)系の会社などは、次々と新しいものを生まないとならないから、新入社員にもどんどん仕事をさせるし、大企業でも積極的に若い力を育てようという会社もあります。が、大企業でそれは少数派。今いる環境では自分は育たない、と思ったら、やはり「個」を生かせる環境に移るべきですよね。
自分の個が生かせるなら、必ずしも海外でなくても構いません。ただ、海外に行けば、なんでも自分で決めなくてはなりません。誰も面倒を見てくれないから、自分で考え、自分で決めて、自分で責任を取る。自分で行動したことは、たとえ失敗しても後で生きてきます。そして、自然に自信がつきます。
その自信は揺るぎないもので、のちに、挫折感を味わうことがあっても、「あの時乗り越えられたんだから、なんとかなる」と思え、前に進める。すなわち、自然に「個」が鍛えられ、世界のどこでも生きのびる力を得られるんです。
もうひとつ、海外に出ると「自分らしく生きることはいいことなんだ」だと実感できます。日本は多様性を許さないところがありますが、海外では違う価値観の人ばかりですからね。そういう経験をするのは、感度が鋭い若い時がいい。先入観でものを見ず、そのままの刺激を受けられます。
人にはそれぞれ存在意義がある、ということを若いうちに知って、自分の存在意義を見つけてほしい。だれもがスティーブ・ジョブズにはなれないし、なる必要もない。それぞれが自分の得意技を見極めて、追求する。その意味では、みんながクリエーターにならないといけないってことですね。
もっと気楽に行こうよ

『世界で活躍する人が大切にしている小さな心がけ』(日経BP社)では、完璧を目指さない、時には鈍感になる、正しいやり方よりむやみにやってみるなど、大げさに考えずに行動しよう、というメッセージが込められている。
編集部――内向き志向の若者に聞いた「海外に出たくない理由」では、語学力に自信がないとか、生活面が不安という声が圧倒的に多い。はなから海外を視野に入れていないというより、飛びたくても飛べない、というように思えますが。
石倉――そう、不安に足を引っ張られている人が多い。だから根っからの内向き志向というより、不安さえ払拭できれば、海外志向に転じる可能性も多い、ということかもしれません。内向き志向の若者には、海外に出ることは、そんな大げさなことではない、ということをわかってもらいたいですね。もっと気楽に考えればいいのに、なんで大げさに考えちゃうのかな。
失敗しても貴重な経験だし、後の財産になります。何をするにも正しいやり方なんてないのだから、“正しく”、とか“無駄なく”、なんて思わず、“むやみ”にやってみればいいんです。知らないことはどんどん回りの人に聞けばいい。こういう体験は、人の話を聞いても身にはなりません。自分でいろいろ経験して学ぶ以外に方法はないんです。
英語だって、現地に行けばわかりますが、ネイティブの人だって、正しい英文法で話しているわけではありません。間違っても通じればいい。そこも大げさに考える必要はない。
今は、世界がつながっていて、何についても知ることができ、誰に対しても個人で発信ができ、新しいことにチャレンジできる素晴らしい時代です。ぜひこの時代のメリットを十分に利用してほしいですね。自分らしさ、「個」を見つけて、自信を持って、世界でその「個」を発揮できたら、きっとすべてが変わりますよ。
(取材・文/小野正恵)
世界で活躍する人を応援する
“スマホマガジン”
『日経GLOBAL GATE』
『日経GLOBAL GATE』は、世界的視野で自分の可能性を追求しようという人を応援する“スマホで読む”デジタルマガジン。世界的ダンサーのケント・モリさんや、NHK朝ドラに出演する注目の俳優DEAN FUJIOKAさんのインタビューをはじめ、海外で成功を目指す日本人のリアルな姿を描き出します。さらに、世界で生きていくために必要な知識と教養、英語の苦手意識を克服するノウハウなどが満載です。
発行:日経BP社
税込価格:400円
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