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インドネシアの中間所得層が、「好きな服を買える」状況を作り出したい〜VIP PLAZA CEO 金泰成さん〜

Posted on 2019年11月05日
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ファッションを中心としたアイテムを、期間限定のセール価格で販売するサイト「VIP Plaza」東南アジアの中間所得層に、ブランド品を低価格で届けることを目指してこの会社をインドネシアで立ち上げた金泰成さんに、起業に至るまでのお話を伺いました。


 


 


自分が見ているものは、「限られた情報」か「最適化されていない情報」だと常に自己否定する


――現在インドネシアで起業されていますが、元々起業したいという思いを持たれていたのでしょうか?


金さん:3歳くらいからその思いを持っていました。私は日本で生まれ育ちましたが、国籍は韓国です。祖父母の代で韓国から日本に移住し、キムファミリーは150人くらいいるのですが、全員自営業。だから、「自分も将来は何かやらないといけない。でも、もし事業に失敗してホームレスになったらどうしよう」という恐怖心のようなものを抱いていましたね。


通っていた朝鮮中学校も、ひと学年30人のうち全家庭が自営業だったのでそれが当たり前だと思っていました。


ずっと韓国人コミュニティに所属していた私が初めて日本人コミュニティに足を踏み入れたのは、中学生の時です。在日韓国人は朝鮮幼稚園から朝鮮大学まで進学して、焼肉屋や喫茶店を経営する人がほとんどです。


でも、私は三男だったこともあり、兄弟と違うことをしたくて高校は日本の学校を受験することに。勉強のために中学2年から早稲田アカデミーに通い始めたのですが、日本人と関わったことがないため、初日はかなり緊張しましたね。


いじめられたり嫌われたりするのではないかと身構えて行ったら、周りの生徒たちが優しく受け入れてくれて衝撃を受けました。その時に、「小さなコミュニティの中の偏った情報だけで、日本人のことを判断していた。自分はなんてかっこ悪いんだろう」と強烈に思ったんです。


この原体験から、常に自分が見ているものは「限られた情報」か「最適化されていない情報」だと捉えるようになりました。だから、常に自己否定をするように心がけています。


中学校卒業後は、同級生25人のうち私だけ日本の高校に進学し、そこでさらに「たくさんのことを知りたい」「色んなコミュニティに飛び込みたい」という気持ちが募っていき、日本の大学に進学。大学に入ってからは国際交流サークルに所属したりルーツである韓国に行ったり、アメリカ留学や世界中を旅してさらに視野を広げていきました。


――大学卒業後はどうされたのでしょうか。


金さん:新卒で株式会社楽天に入社しました。キムファミリーの中でサラリーマンになったのは私ひとりだけです。でも、いつか自分も起業したいと考えていたため、事業立ち上げを経験でき、かつ国際的なビジネスに挑戦できる会社を探してこの会社を選びました。


就職活動では「海外で働けること」を軸に約60社の会社説明会に参加しましたね。当時、楽天は海外展開に本腰を入れ始めた頃で国際部のスタッフは3人だけでした。国際部のトップに「ここで働きたい」と伝えると、「そんなに来たいなら明日からアルバイトとして働いたらどうか」と言われて、入社を決意。


正式入社までの半年間は内定者アルバイトとして国際部で働いたのですが、そこでの経験から現場のことを知らないと何もできないと思ったため、入社時の配属希望先は営業の楽天市場事業部を選択しました。


希望通りに配属され、楽天市場に出店している約400500店舗のサポート業務を行い、月商10万円だった家族経営の小さな靴屋さんを半年後に月収1400万円にした結果、社長賞をいただきました。その後はさいたま支社の立ち上げをし、ここでも結果を出して再び社長賞を受賞。


その頃、国際部のトップから「楽天のインドネシア法人のEC事業取締役として働かないか」という電話をもらい、入社年目に国際部への異動が実現しました。そして、国際部で働き初めて3日後にはインドネシアに飛び、そこからずっとインドネシア在住です。


 


 

ハングリー精神を持って事業を立ち上げる同世代の姿に、強い影響を受けた


――国際部に異動してから3日後には現地で暮らされるなんて、すごいスピード感ですね。


金さん:当時はまだ海外駐在の制度が整っておらず、住む場所もオフィスも決まっていなかったので、本当にゼロから自分で立ち上げをしました。楽天にとってインドネシアは未開の市場だったので、どんな事業ができるかを模索するところからスタート。


起業家や財界関係者など、大勢の人たちに会う中で事業内容を決めていきました。そして、インドネシア最大手のメディア企業と合弁して20113月にWEBサイトをローンチし、店舗とスタッフをどんどん増やしていきました。


インドネシアで働き始めて3年が経った頃にはスタッフが60人規模に。このタイミングで起業を決意し、201212月に楽天を退職して現在に至ります。


――何か起業を後押ししたものがあったのでしょうか。


金さん:仕事でインドネシアの財閥の御曹司たちと関わることが多かったのですが、すでにお金持ちなのに常に勉強し続け、ハングリー精神を持って事業を立ち上げる彼らの姿に強い影響を受けました。


同世代が活躍する姿を目の当たりにするうちに、「彼らのように自分も挑戦しなければ、同レベルの成長機会を得られない」と思うように。インドネシアにはある程度の市場規模があることも、この場所で起業する後押しになりましたね。


――現在されている事業について教えてください。


金さん:ファッションを中心としたアイテムを、期間限定のセール価格で販売するサイト『VIP Plaza』を運営しています。このサイトのコンセプトは「良い商品が最安値で買える」こと。掲載商品はすべて10日間限定のセール品で構成され、毎朝10時になると新商品が出品される仕組みになっています。


だから、毎日のようにサイトを訪れるユーザー率が高いですね。ターゲットはインドネシアの人口24000万人のうちの6000万人にあたる中間所得層で、都市部に住んでいるホワイトカラーの仕事に就いている人か主婦が対象です。


実際に人口の多くを占めるのは低所得層ですが、今後は中間所得層に上がってくるため、ファッションにもお金を使うようになってくるはず。最終的には、東南アジアの中間所得層に、VIP Plazaを通してブランド品を低価格で届ける“Now Everyone Can Buy”という状況を目指しています。


 


 


何も考えずに飛び込むのは、勇敢ではなく無謀


――インドネシアで会社経営をされる中で、どんなことに苦労されてきましたか?


金さん:どのようにマネジメントをすれば、結果を出しながらスタッフたちが気持ちよく働けるのかは、こちらで働きはじめて7年経った今でも悩みます。実は、インドネシアに来て楽天インドネシア支店の立ち上げをした際、初年度の離職率が120%以上だったんです。


当時私は25歳で、楽天の経験とやり方しかわかりませんでした。日本と同様に、数字に厳しく時間を守るというマネジメントを徹底すると、最初の年が終わった段階で44人中24人が退職。


日本とインドネシアでは、国民性もマネジメントスタイルも全く違うということを実感しましたね。ただ、この状況の中でも営業数字を作ることを日本側からは求められます。


そこで、月間のターゲットを割り振って数字で管理するマネジメント方法から、月間のターゲットを与えて、どう達成したいのかをマネージャーがサポートするスタイルに変えたところ、少しずつ結果が出てくるようになりました。 


――これまでされてきた決断の中で、印象に残っている決断があれば教えて下さい。


金さん:マレーシアに事業展開をして、3ヶ月で撤退したことですね。それなりの金額を投資したので、この決断にはかなりの勇気がいりました。


撤退理由は、実際にサイトをローンチすると、インドネシアの半分で見積もっていた新規顧客の獲得単価がインドネシアの5倍もかかったからです。


獲得単価が高い原因は、マレーシアは人口が約3000万人で市場規模が小さい上に、Eコマース市場の成長が遅いこと。これでは予定していた結果を出せないことは明らかでした。マレーシアの場合は規模が変わらない市場の中に、すでに海外の大企業が参入しているため顧客の奪い合いになります。


一方で、インドネシアは総人口が約25000万人で毎年の市場拡大規模が大きく、新規参入できる余地があります。そういった状況を踏まえて、インドネシアでの事業展開に集中することを決めて早急に事業を打ち切りました。


――最後に、海外で働きたい若者へのメッセージをお願いします。


金さん:現地でスタートアップを経営する立場からすると、「やることをやらずに現地に飛び込めばなんとかなる」という考えは甘いと思います。


たとえば、海外では前提条件として英語が必須の場合が多いですが、本当に勝負しようと思っていたら、飛び込む前に毎日死ぬ気で勉強してTOEIC900点くらい取れるはずです。


何も考えずに飛び込むというのは、勇敢ではなく無謀な場合もあります。世界で勝負していくには、自分に必要なスキルを冷静に見極めて、今の場所でできることから一つひとつ積み重ねていくことが大事だと思います。


 


【プロフィール】


金泰成(Kim Tesong


1985年生まれ。韓国籍でありながら日本で生まれ育ち、幼少期を文化の狭間で暮らした。中学生までは朝鮮学校の「狭い」コミュニティー内で過ごしたが、周囲の反対を押し切り一般高校に入学。早稲田大学政治経済学部を卒業後、2008年株式会社楽天に入社。楽天市場のファッション事業部やさいたま支社の立ち上げを経て2010年にインドネシアに渡り、2010年より同社インドネシア事業の立ち上げに従事。楽天と現地のメディア系財閥との合弁会社PT.Rakuten-MNCの取締役に就任。2013年退社後、インキュベーターズ・アジアを創業し、2014年2月から会員制ファッション販売サイト「VIP PLAZA」を展開。


 


経験した日: 2017年10月02日

Ambassadorのプロフィール


濱田真里

海外で働く日本人に特化した取材・インタビューサイトの運営を2011年から続けている。その経験から、もっと若い人たちに海外に興味を持って一歩を踏み出してもらうためには、現地のワクワクする情報が必要だ!と感じて『ABROADERS』を立ち上げる。好きな国はマレーシアとカンボジア。

濱田真里さんが書いたノート


インドネシア に関するノート